ロシアGPが終わり、本来なら来週の今頃は鈴鹿に居たのになぁなんてコロナウイルスを恨みつつ過ごしていた金曜日。とてつもない衝撃が突然襲来した。
Honda to Conclude Participation in FIA Formula One World Championship.
— Honda Racing F1 (@HondaRacingF1) 2020年10月2日
【FIA フォーミュラ・ワン世界選手権への参戦終了について】
— Honda 本田技研工業(株) (@HondaJP) 2020年10月2日
Hondaは、このたび、2021年シーズンをもちまして、 F1へのパワーユニットサプライヤーとしての参戦を終了することを決定致しました。
広報発表をご確認ください。https://t.co/PHwbHGujT8
(以下に続く)
最初この文字列を見た時、全く理解出来なかった。正に「処理落ち」と表現して良い程フリーズしてしまった。勿論、何を書いているかは分かったし、それが何を意味しているかは分かった。ただ、それ以上に「何で…」とか「えっ…」とか、そういう気持ちが表に出てしまった。
何が「一定の成果」だ。たった数戦勝ったのが「成果」だと言うのか。ホンダ第3期の遺産チームであるメルセデスに完敗してるのに。そんな中途半端な成績を目指して15年に復帰をしたのか。一体何がしたかったんだ。復帰した際、「もう出たり入ったりしない。だから第4期とは呼ばない」と言ったんじゃないか。あれは嘘だったのか。折角マクラーレンと組んでいた暗黒時代からようやくトップを争える所まで来たのに…etc.etc.
本当、思うところは山程出てくる。
08年の時の撤退は、残念な気持ちになったがら納得出来た。「リーマンショックによる資金難で続けられません…!」と素直に表明したからだ。
なのに今回は「EVやカーボンニュートラル云々」と見え透いた嘘をついた。「見え透いた嘘」という表現は悪いかもしれない。確かに、将来の欧州や世界の情勢を考えると、ここでカーボンニュートラル技術で他所を出し抜ける事が出来れば、企業として天下を取れるかもしれない。
しかし、今の社会は、カーボンニュートラル云々よりコロナウイルス蔓延による影響から如何に復活するかの方が重大任務である。それを成し遂げる為のコストカットの一環に、莫大な資金がかかるF1が選ばれたのは分からなくもない。撤退しないのが第1なのは当然として、仮に撤退するとしてもファンとしては、素直に「コロナのせいで会社がヤバくなってF1やっている暇と資金がないんです」と言って欲しかった。リップサービスの可能性もあるが、F1もカーボンニュートラル化を目指すと表明している。向いている方向はF1とホンダで同じはずだ。ホンダが発表した事は辞める理由にはなり得ない。
本当にカーボンニュートラルで天下を取りに行くならば、バイオエタノールを使っているとは言え、エンジンをぶん回しているインディカーや、普通にガソリンを使っているSGTやSF、加えて二輪レースを辞める方が理にかなっている気がする。全く一貫性がない。それなのに「レースはホンダのDNA」??ふざけるな、と、どうしても思ってしまう。
特に苛ついたのは冒頭に挙げた「一定の成果を達成出来た」という八郷社長の文言である。言葉尻のようだが、ロシアGP終了時点でホンダPUが挙げた勝利はたった5勝。しかも大抵がレースの綾でもぎ取ったもので完勝と言えるレースは遥かに少ない。そんな結果なのに「一定の成果を達成出来た」と社長は表現した。対外的、しかもレース無関心層に向けた言葉なのは理解出来る。が、それでもレースファンとしてこの表現は使って欲しくなかった。これが中団チームであるトロロッソ(現:アルファタウリ)だけと組んでいるのなら恐らく納得出来ただろう。しかし、今組んでいるのはアルファタウリだけでなく、"あの"レッドブルも、である。PU時代前はF1を支配していたトップチームと組むと発表された際、誰しもがワールドチャンピオンを夢見た事であろう。レッドブルが、これまで契約していたルノーと仲が悪くなった等、多少の運があったとは言え、こんなトップを狙える機会は滅多とない。
ホンダPUを積んだ車が王者メルセデスを倒して世界チャンピオン。マクラーレン時代の暗黒期から瀬戸際でトロロッソという藁を掴み、そこで力を認められレッドブルとタッグを組み、最強ホンダ完全復活。そんなシナリオを描いていたのはファンとF1の現場で戦う人だけで社長達役員には無かったんだな、と残念に感じた。
あ〜。本当に腹が立つ。自分のような考えを持つのは、世間一般では恐らく少数派だろう。無駄金を使うなら今後の為に投資するか、株主に還元するのが筋だと思うのが普通である。
でも言いたい。
悔しくないのか、と。今F1を支配しているメルセデスは元々ホンダ第3期の遺産チームだぞ、と。あんなに「負けるもんか。」とか「枠にはまるな。」とか「数えきれない悔しさが、私たちを強くした。」とか「走り続けることでしか、叶えられないことがある」と謳っていた企業メッセージは一体何だったのか。これらの言葉が途端に薄っぺらく感じてしまう。
【数えきれない悔しさが、私たちを強くした。】
— Honda 本田技研工業(株) (@HondaJP) 2019年7月5日
Aston Martin Red Bull Racingのマックス・フェルスタッペン選手(@Max33Verstappen)が、F1世界選手権第9戦オーストリアGPで優勝✨
熱いご声援、本当にありがとうございました!
走り続けることでしか、叶えられないことがある。
The Power of Dreams pic.twitter.com/ND9VIAnTRN
走り続けることでしか、叶えられないことがある#受験生頑張れ #センター試験 pic.twitter.com/45ZZpPVmsy
— Honda 本田技研工業(株) (@HondaJP) 2020年1月17日
元々自分のF1観の中でホンダが占める割合が少なかったのもあるだろうが、ホンダが居ないF1なんて想像出来ない…とかそういう気持ちは一切ない。ホンダに2度とF1に帰ってきて欲しくない、とかそんな思いがある訳でもない。ただ、確実にホンダの印象は悪くなったし、仮に今後F1に帰ってくるとしても素直に応援は出来ないな、とは思う。
こんなホンダの動きを見ていると、ずっと参戦しているフェラーリや、何だかんだ言いつつ色々形を変えながらもF1に籍を残しているルノーの方がずっと印象が良いし、応援のしがいがある。「F1の"F"はFerrariのFだ」と言われるのもF1創成期から1度も抜ける事なく参戦している事情を踏まえると納得出来る。感情的と揶揄されるかもしれないが、個人的には涙を流しながら撤退の会見を行った、山科さんをトップとするトヨタの方がホンダより遥かに印象が良い。しかもトヨタは今、アウディ達が居なくてもWECに参戦している。個人的に小さい頃から。ホンダはレースやスポーツカーを突き詰めるロマン志向で、トヨタは一般車に注力する安定志向という偏見を持っていたので、まさか年月が経ってホンダがトヨタらしく、トヨタがホンダらしくなるとは思っても見なかった。
ふぅ…
今は正にホンダに対する諦めというか、残念な気持ちが強いが、今回の騒動は今後のF1の行方にも関わるとも思う。
先ず、今回の撤退が噂話ですら出なかった事だ。ドライバーの移籍話を含め、大体こういう周囲を震撼させるような話は、公然の秘密として既知のものとなったタイミングで発表されるもの、というのは歴が長いF1ファンならご存知の事だろう。しかし、今回はそんな噂が少なくともファンまで流れて来なかった。素直に奇妙だ。一体裏でどんな動きがある(あった)のか、見たくないような気もするが気になってしまう。
そして、もう1つ気になるのは、今後ホンダに続くチーム、メーカーが出るかもしれないという事だ。過去にレッドブルは「ホンダが居なければ撤退」とに答えていた。恐らく弟チームのアルファタウリもそうだろう。一応、25年までのコンコルド協定はどのチームも結んでいるが、実際にどうなるかは分からない。新規参入と既存チームの存続を目指し、規則をこねくり回していた結果、フェラーリ以外は消えてしまった…とならない事を祈る。
さて、ホンダPUを搭載する現行F1マシンが見られるのは残り半年と1年。
死にかけ状態を救ってくれた恩人アルファタウリと、信じて搭載を決定してくれたレッドブルを裏切ったホンダに対して、どのような気持ちを持って見守って行けば良いだろうか。「有終の美を飾って欲しい」という気持ちと「メルセデスにボッコボコにやられて敗走して欲しい」という気持ちが混在しているのが今の正直な感覚だ。勿論、現場の人は何も悪くない。というかむしろ被害者側なので彼らは責める事は出来ない。彼らの努力を思うと、最終戦にライバルをぶっちぎって勝ち逃げを果たして欲しい。しかし、そうなると撤退を決めた本社の思惑通りになりそうで、それはそれで面白くない。何とも複雑な気持ちだ。
まぁ何はともあれ泣いても笑っても後約30戦弱。ガスリー達4人のドライバーとスタッフが悔いの残らない成績を残して欲しいものだ。